’98TAKAOKA CRAFTS EXHIBITION

ちょうど10年前私達が独立をして間もなく、仕事といえば下請けばかりでオリジナルの家具を作りたいと意気込んで独立したわりにはなんとなく忙しい毎日が過ぎ、このままでいいのか?と感じていた頃、いつかはチャレンジしてみたいと思っていた地元富山の高岡クラフト展に出品して運良く入選でもしてくれれば、きれいに飾ってもらえるうえに販売までしてもらえる、これは良い営業になるのではと思い軽い気持ちで出品を決めました。しかしいざ作品を作ろうと思っても何を作ればよいのか、自分達らしさとはどのようなものなのかさえわからない状態でした。ただ間違いなく断言できるのは自分達は日本人だということ、ならば今の日本人が今の日本人のために今作らなければならないものとは何か、変わりつつある生活スタイルの中でこれだけは残しておきたいこと、それは室礼という行為、住宅事情により座敷が無くなりつつある今、飾り付ける代表的な場所【床の間】だけでも残しておきたいとの思いで【置き床】を作ることにしました。置き床とは床の間の床板のように作った台で、移動できるもの。狭い部屋などで、床の間代わりに使うもので、壁に掛け軸などを掛け、その前に置き床を置くだけで床の間の空間が演出できるという優れものです。材料には当時珍しかった神代タモ、神代ニレを使用。比較的木目がはっきりと出てきて主張するので、デザインは極力シンプルにしました。
これも肩に力が入りさんざん悩み、ある意味少しあきらめも出てきた時に肩の力が抜け一瞬「無」の状態で「ふっ」と思いついたのを覚えています。それから2人で話し合い少し改良して出来たのが「うもれぎ」でした。うもれぎ(神代)とは地層中に埋まった樹木が長年の間に炭化して化石のようになったもので、人工ではできない何ともきれいな色をした木です。自分達の中では良いものが出来たのではないかと思っていましたが、なにしろ見た目がかなりシンプルだったのでただの板と言われればそれまでで出品にはかなり勇気が必要でした。というのも当時のクラフト展ではこのようなシンプルな家具は少なく、しかも初出品だったのでなおさらのこと。しかし結果は見事グランプリを頂くことができ、一報を受けた時周りに誰も居なかったので当時飼っていた犬の「ゴン」に抱きついたのを思い出します。
後に、思い起こせばあのとき一瞬ですが肩の力を抜いて考えることが出来たから、このように良い結果を残せたのだと思います。簡単なことではありませんが、時にはこのように「無」の状態で生まれるものから思いもよらないものができることもあるように思います。

この作品に書かれた評価はこうでした。

木のクラフトのもつ暖かさや温もりを断ち切り、これ以上はないというまでに、
削ぎ落とされたシャープなフォルムの放つ緊張感が鮮烈である。
完璧なプロポーション、エッジの切り込みの角度、
ディティールの美しさに作者の鋭い感性が伺える。
化石のように硬くて加工の難しい素材−神代・タモ−を用いて、
細部に濃縮された加工技術は、微塵も手の痕跡を残さない…。
若い木工作家の潔さ、仕事の充実度が感動を誘う。
花台に限らず、多様な生活シーンへの提案性のある優れた木製家具である。


制作した本人はここまでのことを計算して作ってはいません。
ある意味職人は、感覚で仕事をしているように思います。
言葉で表現することはもちろん重要なことですが、作る過程で足したり引いたりしながら仕上げていく感覚も鍛えていかなくてはいけません。
少なくとも僕たちはそうやってきました。
これからもこの「感覚」というものも大切に作品を生み出していきたいと思います。
そのためには良い話を聞き、良いものを見て、おいしいものを食べる、こうしたすぐ出来ることから始めようと思っています。




’98高岡クラフトコンペグランプリ作品「うもれぎ」