家具と人





昨年の8月に出版された「家具と人」より
我々の紹介も兼ねてご覧頂きたいと思います。
かなり恥ずかしいところもありますが、すでに
全国発売されているのでどうぞご覧下さい。

少し長いですが、なんとか最後までお読み下さい。
それでは・・・・。







SHIMOO DESIGN

下尾和彦 + 下尾さおり

ゆかりある土地で
「潔く、合理的で美しい道具」をコンセプトにモダンな
和の雰囲気を漂わせた作品を生み出しているSHIMOO DESIGN。
富山県富山市に工房を構える下尾和彦さんとさおりさんご夫婦
によるユニットだ。

富山県で育った和彦さんとさおりさんは、高岡短期大学産業工芸学科
に入学し、そこで出会い付き合うようになる。卒業後、和彦さんは
岐阜県高山市の家具工房へ、さおりさんは富山県内の大工の棟梁の
もとに修行に入り、それぞれの場所で腕を磨いた。
97年、結婚と同時に家具工房「SHIMOO DESIGN」を始める。
98年、初出展した工芸都市高岡クラフトコンペティションでは
グランプリを受賞、その後03年まで入賞を繰り返す。
また、朝日現代クラフト(05)やミラノサローネ国際家具見本市(06)
などにも作品を出展する。
個人からのオーダー家具をはじめ、店舗の家具、茶道具などを
手がけており、最近は「縁具」と名づけたシリーズを発表している。
二人の子供がいる。

縁を結びながら家具をつくる

彼女は18歳。短大の講義で繰り広げられる木工の世界に
魅入られていた。
世界の名作椅子の美しさに釘付けになり、自分の手で
形を変えていく木に夢中になっていた。
とても真面目な優等生だった。
ある実技の授業、時間が経つにつれ雰囲気がゆるみ、
クラスメイトが騒ぎ始める。ふと彼女は、その中で一人だけ、
旋盤の前に座り熱心に旋盤をまわし続けている彼の姿に
気がついた。普段は授業にもちゃんと出てこないとても
不真面目な彼なのに、その意外性が印象的で心を捉えられた。
しばらくして、正反対だと思っていた真面目な彼女と不真面目
な彼は、互いの価値観や好きなものが似ている事に気づき、
そして恋をし、付き合うようになった。
「おわら風の盆」で有名な富山県八尾町で家具工房を構える、
下尾和彦さんとさおりさんは二人の出会いをこう回想する。
短大卒業後、和彦さんは岐阜県高山市の家具工房へ、
さおりさんは富山県の大工の棟梁のところへ、家具づくりの
修行に入った。
「一緒に家具をつくりたいという気持ちはあったけど、
離れていても進みたい方向が同じならいつか一緒にやれるはず」
当時はそんな思いで離れた。
それから5年後、二人の思いは同じ方向に進み始めた。
「結婚したい、だったら家具づくりもやろうと。
一緒に家具をやるときは結婚するときみたいな。
それが当たり前だった」
97年、結婚と同時に独立。当初は、知り合いの工房から下請けの
仕事が入り、生活に困ることはなかった。しかし、それでは何の
ために独立したのかわからない。つくりたいものがあったはずだ。
そこで、自分たちの存在を知ってもらうため、工芸都市高岡クラフ
トコンペティションに出展をした。
「うもれぎ」と題された神代タモを使った静謐な雰囲気を漂わせる
シンプルで美しい置き床は、初出展にもかかわらず、いきなりの
グランプリ受賞となった。これを皮切りに、このコンペでは何度も
受賞をし、また、国内だけではなく、ミラノの国際見本市などにも
勢力的に作品を発表してきた。経歴だけをみると、順調に進んでき
たように思えた。しかし二人は、これまでを「回り道したよね」
と振り返る。
確かに、コンペの審査員や海外のバイヤーなど家具の玄人には高く
評価された。しかし、それが売り上げにはつながらなかったのだ。
「コンペで認められることが手っ取り早い営業活動だと思ってい
ました。だからこそ、個性を出そうとするあまりにデザインに走り
すぎてしまった。そこに面白さはあったのですが、実際には売れ
ない。自信があるようでない状態が続いたんです。」
どうすべきなのか。自分達が目指すべき家具とは何なのか。
何度も話し合った。奇抜なデザインで生活から離れた家具ではなく、
自分達が本当に使いたいものをつくろう。自分たちらしさである
和のテイストを大切にしながら「潔く、合理的で美しい道具」を
コンセプトに再スタートをきった。さらに二人の製作スタイルも
確立されていった。それは互いの意見をほったらかしにしないと
いうこと。コンセプトもデザインも製作も、常に二人で意見を出し
合い、納得するまで話し合う。お互いが妥協しなければ必ずいい
ものを世に送り出すことが出来る。強い信頼関係が二人を支えた。
「技術に関しては、彼には敵わないなあと思いますね」
「彼女の審美眼、センスには影響されますね。意見を取り入れると
本当にいいものができる。価値観が似ているんです」
「いいときにいいことを思いつく二人って感じかな」
SHIMOO DESIGNの家具は、どちらか一人の感性や技術が欠けても
生まれない。それはお互いが一番よくわかっている。
5年前、仏壇メーカーから「今までにない新しい仏壇」の
製作依頼がきた。仏壇よりも身近で、家具よりも厳かなデザインを
イメージし、先祖や家族はもちろん、人との「縁」に感謝の気持ち
を込め、彼らなりの祈りをかたちにしようと試行錯誤を繰り返した。
そして今年、それらは「縁具」と名付けられ公開までこぎつけた。
二人はようやく自分たちらしさで勝負する手ごたえを感じたのだ。
「独立して12年かあ」
和彦さんは感慨深げにつぶやく。
「これからですね。いよいよ本格的に2人で歩み始められます」
子育てがひと段落ついたさおりさんはいう。
縁があり出会った2人は、さらに多くの人たちと縁を結びながら、
今後も世界を広げていくのだ。

伝統の和を現代に体現する「CHAJOKU」

パリにオープンした「寿月堂」の茶室で、立礼での点前をする
ためにしつらえた立礼卓「CHAJOKU」。立礼卓本来の形を残
しつつ、3つの家具の組み合わせで多様なシーンに対応できる
ように制作した。タモの美しい木目や無駄のないシンプルな形は、
清潔な美を生み出しているだけではなく、茶の湯の伝統が持つ厳
かな雰囲気もかもし出している。
2人が海外に向けて制作したのはこれが初めてではない。
コンペで受賞を繰り返していた頃、周りから「家具といえば
ミラノで」といわれ、06年にミラノサローネに出展したこと
がある。ちょうど、評価されながらも思うように売り上げが
伸びない時期とも重なっていた。
「ミラノ、ミラノとなっている状態は少し無理があった。
日本でちゃんと認められてからの海外だと思います」
自分たちを見つめなおし、地に足をつけ再スタートをきった
ときのコンセプト、「潔く、合理的で美しい日本の道具」
がそのまま体現されている立礼卓。彼らの真骨頂だ。



ありがとうございました。
6ページにもわたる特集でした。
こんな2人で SHIMOO DESIGNです。



shimoo@ 今は真面目にやっています。